たぬきづき

月夜野たぬこ(書き人)の日々の気づきやら思いやら

これまでを振り返ってみる その4 +突然の爆発

龍に見えた雲

感情調節に難を持つ家族のための勉強会。とにかく、娘への対処法や、いい関係を築く具体策が知りたくて参加を決めたものの…そこでわたしを救ってくれたのは、「方法」ではなく、同じ境遇を語れる「仲間」の存在だった。

お互いの連絡先も知らず、月に一度顔を合わせるだけ。それでも、そこには理解しあえる仲間がいた。誰に話してもわかってもらえないことが、そこではわかってもらえた。自分事として、とらえてくれた。わたしも、ほかの方の話を、自分ごととして聞くことができた。
細かい状況も年齢もばらばら。でも、その場の空気は温かくて、みんな必死に道を探して集っていて、その空気にわたしは救われた。

わたしは、月に一度の集まりを楽しみに通うようになり、気づけば5年がたっている。

5年の間に、参加しなくなった仲間もいれば、新たに加わった仲間もいる。それぞれの都合もあるので、毎回、同じメンバーが顔をそろえるわけでもない。とりとめのない話で終始することもある。

それでも…不思議なのは、一進一退しながらも、どのご家族も悪化はしていないことだ。時として揺り戻しのようなことはあっても、長い目で振り返れば、どのご家族も、よりよい方向へと進んでいる。

娘も…だ。
今でも感情が荒れることはあるし、BPDやASDの傾向が抜けたわけではないけれど、穏やかな時間が増えた。毎日、嵐のような日々を送っていたことを思えば、それで十分なのかもしれない。
あとは、突然の爆発に、わたしはもちろん、娘自身が上手に対処できるようになれば、きっともっと苦しまずに生きていけるはず…という思いを込めて、昨日の爆発について書き留めてみる。

**********

昨晩、娘が、大切な人にプレゼントするための日本酒を買って帰ってきた。機嫌よく見せてくれたので
「おー、純米酒だね」
と、応じたら
「うん。吟醸酒より、純米酒のほうがいいんだよね?」
と、返ってきた。

前に、娘と一緒に日本酒を買いに行ったことがある。そのときに、原材料や精米歩合の話をして「原材料が米と米麹で、精米歩合の数字の低い大吟醸吟醸なら、ランクとしては高いと考えていいんじゃないかな」という話をしたことがある。その記憶は残っていたのだけれど、どこかで「買うなら純米酒」と置き換わってしまったらしかった。

「あ、ランクでいったら、吟醸が上じゃないかな」

そう答えたとたんに、娘の顔色が変わった。
「え、わたし、まちがえたの?」
「まちがえたっていうか、ランクの話をしたら、純米酒より吟醸で、そのうえが大吟醸だと思うんだけど…」

それがきっかけで、娘は爆発した。自分に対する怒りだ。

「なんでわたしはこう、バカなのっ! いいなと思ったお酒があって、それは吟醸酒だったけど、純米酒のほうがいいと思って、こっちを選んだのにっ。なんでこう、頭が悪いのっ! 買い物も満足にできないなんて、もういやだっ!!!!!!」

大きな声で叫ぶ。その声があまりにも大きかったので

「大きな声を出さないでよ」と、言ってしまったわたし。。。(←これは、対応としては失敗。頭ではわかっていても、自分自身も感情がついていかなかった。反省)

「今日は、体調が悪いって、昼にもメールしたでしょっ!!!!!!」と、さらに大きな怒鳴り声が返ってきた。(←ここで、私は自分の対応の失敗に気づき、娘の感情に巻き込まれないように気をつけた。ただ、それとて、よかったのかどうかはわからない。よ。よかったのは、巻き込まれなかったこと…ということで)。

ちょうど、「ごはんにしようか」という夕飯前の出来事。
わたしはわたしなりに、娘の体調のことを考えて、食事の用意をしていた。それは、娘に頼まれたことではなく、わたしが勝手にしたことだけれど…。テーブルに並べた食事を見て、なんだか悲しくなって、食欲もすっかりうせてしまった。

娘は「満足に買い物もできないバカだっ」と、自分自身に盛んに怒りを向けている。何も答えず聞き流していたものの、埒があかないので、声をかけてみた。

「そのお酒、おかあさんが買い取るよ」
「うるさいっ」
「じゃあ、買いたかったやつを買ってきたらどう?」
「そんなお金、ないよっ!!!!!!」(小瓶なので、1000円もしないのだが)
「ごはん、どうする? もう少し落ち着いてからにする?」
「食べるって、さっき言ったでしょっ!!!!!」

このときの自分の気持ちを表現すると「どうして、こうなってしまうんだろう」ということに尽きる気がする。でもでも、このとき、わたしがすべきだったのは、思い違いをして買ってしまった娘の心に寄り添うことなのだ…ということが、こうしてあらためて振り返って書いているとわかるのだけれど、その場ではうまく出てこない。

しばらくすると、娘も気持ちが落ち着いてきた。
「また、荒れてしまって、ごめんなさい」という言葉も出た。
「まだお店があいているから、お酒、買いなおしに行く?」と提案したら「行く」というので、急いで夕食を終えて、一緒に出かけた。

後で娘いわく「あんなふうに、怒らなくてもよかったのに…って、今は思う」。

うん。
「まちがえちゃった、てへ」という人もいるだろうし、「今回は、このお酒でいいや」という人もいるだろうし、「買いなおしてくるわ」でもいいだろうし、まちがえた自分に怒りを向けなくても、対処の方法は、いろいろある。

だけれど、地雷のように瞬間的に爆発してしまう感情。ミスやまちがいは「許されない」という本人の中にある価値観…のようなもの。実際、娘は、ほかの人のミスやまちがいにも厳しいし、怒りとなる。

本人になりに対処しようとしているものの、難しい面がある。わたしも、心の準備があればそれなりの対処ができるようにはなってきたとは思うのだけれど、いきなり直面すると、心がついていかず、感情的に巻き込まれる。

でもでもでも。
昨日、巻き込まれそうになって踏みとどまれたのは、直前の家族会で学んだ「マインドフルネス」のことを思い出したからだ。
「今こそ、ここでマインドフルだ!」と、思えた。
出来はどうあれ、今までは思えずに娘の感情に巻き込まれ、疲弊していたのだから、それを思えば進歩じゃないかっ!

娘も大丈夫だっ!
いつも言い聞かせているじゃないか「娘を信じよう!」って。

うん。大丈夫、大丈夫。
一緒に、がんばろ。わが娘。